講座(3)『摩訶般若波羅密多心経』の教え⑩

仏の教え

 〇無罣礙故。無有恐怖。遠離一切顛倒夢想。究竟涅槃。(罣礙無きが故に。恐怖有ることなく。一切の顛倒せる夢想を遠離して。涅槃を究竟せり。)
 【用語解説】
  涅槃=安らかな境地、仏境界。
  究竟=成し遂げ完成する、究め尽くす。

 【本文解説】
 「無罣礙」とは、心に自分勝手な執着や妨げるものがないことをいい、「無有恐怖」とは、自らが固執し渇愛しているものが、自身から離れていく恐れを持たないことをいいます。つまり、仏道を志し修行する者は日々、仏の教えの実践に心の眼が向けられているので、自分勝手な見解や妄想にとらわれたり、それらが自身の手から離れる恐れなど持つことはないと、説いているのです。
 仏の教えの理解だけでなく、実習実践によって一切の誤った妄想から離れるからこそ、最終的心の平穏である涅槃を完成し、成し遂げられるのであると、説かれます。
 ちなみに「涅槃」(ねはん)とは、ニルバーナの音写語であり、元語内容は[炎を吹き消す]意から転じて、煩悩の炎栄えたるを吹き消し脱した状態、すなわち厳かで静か、安らかな境地である仏の境界の意味として用いられるに至ったものと考えられます。